作れちゃう

1/20 わくわくアトリエ「空想の街に、地図でトリップ!」

熱中
「めがねと旅する美術展」出展作家の今和泉隆行さん(空想地図作家)を講師にお招きし、空想地図を作るワークショップ「空想の街に、地図でトリップ!」が開催されました。当館に展示されていた作品《空想地図「中村市」(なごむるし)》(http://imgmap.chirijin.com/viewmaps/)をご覧になった方はご存知かと思いますが、今和泉さんの創り出す空想の街の地図は、実在する都市と見紛う精工さで、何も知らずにその地図を渡されたら、日本のどこかに存在している街と信じてしまうほどの出来栄えです。今回、子どもや親子向けのワークショップで「地図を作る」という運びになり、今和泉さんのハイクオリティな地図のイメージから、これをどうやって、地図にふれたこともないかもしれない子どもたちのレベルに落としこむのだろうと思っていました。

1今泉さん
今和泉さんに言われるがまま、事前打ち合わせもなく当日を迎え、ワークショップ直前に簡単な打ち合わせを行いました。用意して下さった地図シート(といっても、地図上で見かけるような、ビジネス街、工場、商業地域、住宅地、農地、山林といった地図模様のパターンがA4用紙いっぱいに印刷されているシンプルなもの。下図参照。)を前に、「どうやって地図を作るのですか?事前に作り方を教えていただけますか?」とお願いすると、きっぱり「作り方なんて無いです。このシートを適当に切って貼ってつないでいけば、地図はできます!」と言われました。カーナビやグーグルマップに頼りきりな私からすると、地図を読むのもやっとなのに、予備知識なしで作れるなんて…信じがたい一言でしたが、なにはともあれワークショップが始まりました。

キット

WSスタート
はじめに、今和泉さんの自己紹介、地図の縮尺に関する簡単な解説と地図シートや道具類の使い方の説明がありました。今回のワークショップでは、空想の街を描くための白画用紙(A4より小さめ)を台紙とし、前述の地図シート、そのほかに「山」を表す緑系の色紙や、「水辺」を表す青系の色紙を用意しました。これらを自由に切り取り、貼り付け、さらに水性ペンやラインテープを用いて、山河や街をつなぐ「道」を引き、地図を作っていきます。

道具の説明
道テープ

今和泉さん曰く、小学3年生くらいから、サポート無しでも自発的に地図を作り始めるとのことでしたが、本当にその通りで、シートをどんどん切り抜いて、次々と白い画用紙の上に並べ始めました。不思議なもので、真っ白い画用紙の上に、山がひとつ、川がひとつ、小さな住宅街がひとつ…と置かれていくたびに、本当に、それらしい地図が見えてきました。地図に関する知識を多少なりとも持ち合わせている大人よりも、先入観のない子どもの方が、想像力と感覚で、ユニークな地図を作っていくように見えました。

どんどん切る
協力して作る
今回のワークショップは親子参加が多かったこともあり、一緒に制作している様子も見られました。「空想の街の地図を作る」という共通の目的のもと、お互いの希望を伝えたり、作業を分担してみたり、自然と会話が生まれるようで、楽しそうな声があちこちから聞こえてきました。お父さんと息子さんで制作されていたチームは、計画からじっくりと時間をかけて、本当の都市計画に立ち会っているようでした。きっと、親子でも知らない一面を見る、新鮮な機会になったのではないでしょうか。

父と息子

各地で地図をつくるワークショップをされている今和泉さんですが、参加者の方々が作る空想地図には、無意識の内に、ご当地感が反映されるとのことでした。静岡市近郊から参加された方々の空想地図の多くに、山の緑のエリアと、海や川といった水辺を表す青色のエリアの両方が配置されていました。それから富士山を置いた人も何人か見られました。山の幸、海の幸に恵まれた静岡は、本当に住み良い場所ですから、空想の街にも必須ということですね。ちなみに下の写真はスタッフが作成した空想地図です。特に意識した訳では無いのですが、古墳と温泉旅館のある街になっていました…。

旅館街

開始から2時間ほどで、参加者それぞれの個性が際立つ、空想の街の地図が完成しました。さいごに、皆さんが作った空想地図を1枚ずつモニターに映し出し、今和泉さんがその地図を読み解いていきました。

書画カメラで映す
地図を読む1
地図を読む2
地図を読む
「ここには巨大な空き地があります。ここは一体何なのでしょうか、地図上には載せられない国家機密級の何かが隠されているのでしょうか…」それぞれの空想地図に見られる特徴を、リアルに読み解いていく今和泉さんの視点が面白く、笑いを呼んでいました。

住人と地図を読む2
そして街の住人(地図の作者)にも、どういった意図でこの地図を描いたのか発表していただきました。他の人が作った地図を読むことで、その人の生活感や、人生観まで垣間見れ、非常に面白かったです。子どもが描く空想の街は、街全体が回遊型の遊園地になっていたり、どこまでも夢にあふれていました。

夢の街
今和泉さんは、7歳の頃から実在しない都市の地図を描きつづけ、今でもその地図は広がりつづけています。ちょうどこのワークショップを終えた後に、今和泉さんの著書『「地図感覚」から都市を読み解く』(晶文社)が発売予定です。今和泉さんのすごいところは、地図の完成度のみならず、空想の地図が現在の仕事の基盤にもなっているということではないでしょうか。今後も空想地図とともに、様々な事業を展開されていくのだと思います。空想の世界も追及すれば、現実の世界に新たな視点を投じることができるということ。今回のワークショップで、子どもたちにそこまで伝わったかどうかはわかりませんが…いつか、思い出してもらえたら嬉しいです。

 

美術館の独り言

12/8・9 実技講座「樹花鳥獣図屏風を3Dにしよう」

 

ブログ用

実技室プログラムのお知らせです。12月8日・9日の2日間で、現在開催中の「めがねと旅する美術展」出品作家の、山田純嗣さんをお招きして、2日間の講座を実施しました。山田さんは美術史上の名画を立体化し、それを撮影したものの上からさらに描写を重ねるという、独自の技法で制作をされています。

今回の講座では、山田さんの作品プロセスの一部に倣って制作しました。ワークショップでは、メガネやカメラに相当する手作りの装置を覗きながら、当館所蔵の伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》の右隻をジオラマとして再現しました。装置から立体化された作品を覗いてみると、どうなるのでしょうか?当日の様子をご覧ください。

<1日目>

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まずは山田さんご自身の作品についてのご紹介と、今回作るメガネやカメラに相当する装置についての説明がありました。山田さんの目の前に置かれている木箱が、その装置です。装置は木製の箱で、のぞき穴が付いています。まずは一人一つの箱を作るために、板をグルーガンで接着させて組み立てる作業から始まりました。

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次に、樹花鳥獣図屏風をプラスチック板にトレースします。このプラスチック板が、動物を配置するときに重要な目印の役目になります。

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そして、背景用に竹ひごを2本通します。最後にこの竹ひごから、背景の植物や動物を吊るします。さらに地面になる底面を、樹花鳥獣図屏風の見本を見ながら塗っていきます。本物を一見すると緑のベタ塗りに見えますが、茂みの線など、微妙な表情をつけて塗っていきます。IMG_2878

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地面が完成です。地面と草の絶妙な色合いが表現されています。

 

お昼を挟んで、いよいよレジンで動物たちを型取りします。こちらの山田さん作成のシリコン型を使用します。レジンを流し込む前に、離型剤を塗ります。

 

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レジンは2種類の液の反応で固まります。あらかじめ、それぞれ同じ分量を量っておき、一気に混ぜて、シリコン型に流し込みます。すぐに硬化が始まるので、手早く作業します。

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このまま10分程度固まるまで待ちます。型は4種類あるので、この工程を4回繰り返します。
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こちらが方から外した状態です。これからパーツごとに外して、ヤスリやカッターを使って、形を整えていきます。IMG_2895

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とても細かい部品の数々!これほど沢山の動物が屏風の中に居たことに驚きます。作られたパーツと、屏風を照らし合わせて、パーツがそろっているか確認します。

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レジンの気泡が入って、穴があいた場所は、パテで埋めて、一晩置いてからヤスリで削ります。ここで一日目が終了です。

 

<2日目>

昨日に引き続き、レジンで作った動物の形を整えます。昨日パテで埋めた部分もヤスリで整えます。細かい凹凸がありますので、削り落とさないように慎重に進めていきます。

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このように、小さいパーツを作業しやすいように工夫されている方もいらっしゃいました。

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ときどき箱の中に入れてみて、完成を想像しつつ、一休憩…。

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形成が完了次第、着彩に移ります。動物の種類は沢山ありますが、それぞれ共通した色が用いられている箇所があります。山田さんが、それぞれのベースの色とアクセントの色を書きだしてくださったので、これをヒントにして塗っていきます。それぞれの立体に共通する色を一気に塗って、上に重ねて着彩するのがポイントです。

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よく見ると、動物たちには、さまざまな模様があります。はたして、どこまで再現できるのでしょうか…

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一つ一つの動物が形になると、この動物はどこを向いているのか等、表情が気になってきて、つい動物同士のストーリーを考えてしまいます。

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最後に、動物を固定して、手前と奥の植物を設置したらついに完成です。

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上から見ると、このような配置になりました。

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意外と動物同士に距離があり、少しバラついて置かれているように見えるのですが、穴からのぞいてみると・・・

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樹花鳥獣図屏風の世界になっています!のぞき穴という限られた視点から見ると、私たちのよく知っている樹花鳥獣図屏風の絵になっています。なんだか不思議な気持ち…。

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今回のワークショップでは、お馴染みの《樹花鳥獣図屏風》をテーマにしましたが、平面の作品を立体化することで、空間という新しい視点が加わり、動物たちの配置を考えたり、一つ一つ見ていくことで、新たな発見をすることができました。これから他の作品を鑑賞するときに、誰の視点から、どのように見たのか考えたり、描かれているモチーフから見た視点など、平面と立体を往来するように鑑賞すると、作品の見方が広がりそうですね。

作れちゃう 観れちゃう

10/28 わくわくアトリエ「色をあつめて、光のカーテンをつくろう!」

10月さいごの日曜日に、小・中学生を対象としたワークショップ、わくわくアトリエ「色をあつめて、光のカーテンをつくろう!」が実施されました。このワークショップは、現在、静岡市内4か所(静岡県立美術館・静岡市美術館・中勘助文学記念館・東静岡アート&スポーツ/ヒロバ)で開催中の「めぐるりアート静岡」(10/23~11/11)とのコラボレーション企画で、当館の展示を担当されている鈴木諒一さんを講師にお招きしました。どんなワークショップがおこなわれたのか、当日の様子をご紹介します。

セロファンは透ける

はじめに、鈴木さんの自己紹介と作品紹介がありました。鈴木さんは、写真を主な手法として作品を発表されています。写真は、光の現象を留めることができる代表的な道具といえますが、今回のワークショップでは、カメラなどを用いずに色や光をとらえ、遊びながらその存在を自然に意識してもらえるようにと考案されました。

はじまり

午前中は、透明の板と油性マジックを持って、色あつめに出かけました。下の写真は、鈴木さんが色のあつめ方を子どもたちに説明しているところです。透明の板越しに、参加者の子の服の色を写し取っています。トレーシングペーパーなどを使ってイラストを写すのとは違い、現実の世界の色を写し取りますので、対象は無限に存在します。鈴木さんから「これはすごく難しい作業だけど、何を写してもいいし、上手くかたちを取らなくてもいい、あきたら途中でやめて他の色を写してもいいよ」という言葉を受けて、子どもたちはざわざわ…好奇心の高まりが感じられました。

透明な板に写す1

早速、美術館の中や外などへ、個々で色あつめにでかけました。「色あつめ」なんて学校では習わないでしょうから、子どもたちがどんな風に反応するだろうと思っていましたが、はじまるとすぐに方々へ散って、あちこちを移動しながら、たくさんの色をあつめていました。

透明な板に写す2

下の写真の子は、遠くの山や木々を写している様子でした。ひとつだけ赤くなっているところは、紅葉した木々でしょうか。しばらくの間、ずっとこの場所に留まって描いていたのが印象的でした。

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いつもなら目が届かないような塀の上に色を見つけた子もいました。お母さんも透明の板を持って協力してくれました。

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色はどこにあるかな…と探していると、見過ごしてしまうような小さなお花にも気が付くようで、どんどん、色をあつめに熱中していく様子が見てとれました。

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時々差し込む太陽の光に気をつけながら、寝転がって空の色をあつめている子もいました。

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つぎに、あつめた色を持ち寄り、実技室でプロジェクターの光に当てて鑑賞しました。暗い部屋で透明の板に光を当てると、油性マジックで色を塗った部分がスクリーンに投影されました。

投影1

鈴木さんが、子供たちに「何を見て色をあつめてきたの?」と問いかけると、次々と、写した色について教えてくれました。

投影3

色をあつめた透明の板をプロジェクターに接近させると、投影される光の見え方が変化しました。子どもたちは、板を近づけたり遠ざけたりと、感覚的に実験をしながら、板に着彩されたものと、そこに光を透過させることで現れる現象のちがいを楽しんでいる様子でした。

投影5

板の角度を変えたりしていると、時おり、思わぬ場所にも光が現れました。下の写真は、実技室の天井です。オーロラのようにゆらめいて、とても綺麗でした。

天井の光

午後は光を透過する柔らかい白い布に、セロファンやインクで色を施し「光のカーテン」をつくりました。布にセロファンを貼りつけて光をあてると、透明の板と同じように、セロファンの色を他の場所に写すことができます。布に赤青黄のインクで描くと、とても綺麗に発色しますが、光をあてても色を投影することはできません。ライトの光と自然光、どちらの光でも楽しむことができる、素敵なカーテンづくりが始まりました。

実験道具

何も描かれていない布が実技室にたくさん吊るされ、なんだか不思議な空間になりました。鈴木さんの意向で今回は、あえて机を使わずに、カーテンとともにゆらゆらと揺れつつ、布の表と裏を行き来しながら制作してもらいました。

カーテンがいっぱい

子どもたちにとっては、自分の背丈ほどもあるような大きな布ですが、みるみるうちに、カラフルに彩られていきました。

布に描く1
セロファンをくしゃくしゃにして、面白いかたちにカットしてみたり…光を当てたら、どんなふうに見えるでしょうか。

セロファンちょきちょき
カーテンの裏側から見ると、自分の描いたものや、色の重なりが、少し違ったふうにも見えてきます。

カーテンの向こう

ジャクソン・ポロックのように、インクを布に飛ばしながら描いている子もいました。青いセロファンのアクセントも素敵です。

布に描く2
布の一部分を縛って絞り染めのようにしてみたり、みんな次々と、思いついたアイデアを実験している様子が見て取れました。

布に描く4

カーテンが出来上がったところで、もう一度外に遊びに行きました。柔らかい布を手にした子どもたちは、なぜだかくるまれたくなるようで、被ったり、まとったり…小さな王子さまやお姫さまがたくさん出現しました。

外の光で遊ぶ1
午後の優しい光の中でふわりとカーテンを広げると、セロファンがきらきらと輝いて素敵でした。風を受けた布の様子や布越しの景色、子どもたちにはどんな風に見えていたのでしょうか。

外の光で遊ぶ2

みんなが外で遊んでいる間に、スタッフが実技室を暗室にして光源をセットしました。明るい外の光から突然の暗がりに、子どもたちのテンションも一層高まりました。

暗い部屋で遊ぶ

部屋は暗くしたまま、プロジェクターの光に当てたり、懐中電灯やランタンの光に布をかぶせたりしながら布の表情を楽しみました。壁や天井に不思議な光がたくさん現れ、太陽光のもとで遊んだ時とは違う、幻想的な色と光の世界が広がりました。

暗い部屋で遊ぶ2

誰かが、布に下から光を当てて見ると面白いことを発見すると、みんなが同様に実験を始めました。子どもが布の下に寝転がり、大人が布を持ってふわふわと上下させると、とても素敵な世界が見えるようで、時間を忘れて眺めていました。

実技室で行われる子ども向けワークショップは、作品(例えば絵画作品や彫刻作品など)を「作る」体験が中心になることが多いのですが、今回のワークショップでは「色」や「光」という捉えどころのないもの材料にして「光のカーテン」づくりに挑戦しました。子どもたちにとって、解釈が難しい場面が出てくるかもしれないと予想をしていましたが、そんな心配は全く無用で、遊んでいるうちにいつの間にか、たくさんの色と光が実技室にあふれていました。

作れちゃう

10/6-7 創作週間SP イニシャルを「カトゥルーシュ」で飾ろう

実技室プログラムのご案内です。

10月6日と7日に創作週間スペシャル、イニシャルを「カトゥルーシュ」で飾ろうを実施しました。インストラクターは当館実技室のインストラクターで銅版画の、柳本一英氏です。
今回は、銅版画のエッチングの技法で、版を2つ作り、カラーインクを使って、下の写真のようにに多色刷りの作品を制作をしました。

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銅版画の作品を見ていて、装飾文字や、美しいフレームを見た覚えはありませんか?今回のテーマ「カトゥルーシュ」とは、もともと、古代エジプトの象形文字で「囲む」という意味を持ち、王様や身分の高い人の名前を囲うために用いられました。時代を経て、さまざまな装飾的な要素を取り入れながら、建築や室内装飾に用いられるようになり、銅版画の作品にも見られるようになりました。今回は、この「カトゥルーシュ」や、装飾文字に焦点を当てた講座になりました。それでは、どのようにして、作品が出来上がったか、当日の様子をご覧ください。

 

<1日目>

今回は、このように文字とフレームを分けて、2版多色刷りで作品をつくりました。

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講座の冒頭では、使う道具の説明と、エッチングの仕組みについての説明から始まりました。

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エッチングは、銅を腐食させる部分と、させない部分をつくることで、線を作り出す技法です。あらかじめ銅版に「グランド」と呼ばれる防食膜を張って置き、その被膜を引っかいたところが腐食されて、インクが入る溝ができるという仕組みです。下の写真のように、「ニードル」という鉛筆のような針で線をひきます。

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口頭で説明しても、なかなかイメージが沸きづらいところですので、デモンストレーションをしながら順を追って進行しました。

まずは、銅版の描写しない背面が腐食されないように、腐食止めシートを銅版の裏面に貼り込みます。

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そして、「グランド」と呼ばれる防食膜を張ります。張る、といいますが、グランドの液体を銅版に直接垂らして、画面全体に行きわたるように広げます。

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上手くいけば、表面張力で版からグランドがこぼれないのですが、版からグランドがこぼれてしまいそうになり、どうしても慌ててしまう場面です。皆さんにはとても慎重に作業していただき、大きな失敗無くグランド処理することができました。グランドが乾くまで少し時間がかかるので、その間に下絵の準備をしました。

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下絵作りでは、こちらで用意したフレームと文字を組み合わせたり、絵を付け足したりして自分の絵柄をつくりました。細かい絵柄と、シンプルなフレームがありましたが、細かい柄にチャレンジして下さった方が多くいらっしゃいました。

フレーム

次に、版と下絵の間にカーボン紙を挟んで版に転写します。

転写

とても細かいので、どうしても転写し忘れてしまう部分が出てきてしまいます。時々、版にちゃんと写ってるかな?とめくって確認します。

写ってるかな

これで絵柄が版に写りました。ここから、ニードルやエショップを使って、絵柄通りに引っかいていきます。

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白くキラッとしている箇所が引っかいた場所です。描写自体は、薄い膜を剥がすだけなので、ニードルに力は必要ありません。鉛筆で描く感覚とは異なるのですが、鉛筆と同じ感覚でニードルを握るので、つい力が入ってしまいます。RIMG6315

繊細な線を慎重にたどっていきます。とても細かいのですが、皆さん集中して制作されていて、静かな時間がしばらく続きます。

ほり1

お昼を挟んで、終わったかたから腐食に入ります。こちらのこげ茶色の液体が、塩化第二鉄という腐食液です。この中に、先ほど作った版を入れて、腐食が進むのを待ちます。

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そして腐食が終わったら、灯油とホワイトガソリンを使って、防食膜のグランドを落とします。あっという間に元の銅の色に戻ります。

版を洗う

落としたあとがこちらです。引っかいた線が、溝になっています。指でなぞると、なんとなく凹凸ができているのを感じられる程度の、浅い溝です。この溝にインクを詰めて、プレス機で圧をかけて刷っていきます。さっそく刷りたいところですが、刷りには充分な時間が必要なので、明日のお楽しみ、ということで、刷りに向けて紙を湿してからお帰りいただきました。刷る紙を湿らしておくことで、インクののりを良くすることができます。

腐食

印刷には、ハーネミューレというコットンパルプ100パーセントの、厚みのある洋紙を使用しました。そのまま紙を水に沈めて、紙が水を吸うのをしばらく待ちます。「刷る前に濡らすと、なんだか悪そうな気がするのだけど…」という声がたまにありますが、とても丈夫な紙なので、濡れて破れてしまうこともありません。思い切って水に沈めて、しばらく水を吸うのを待ちます。

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そのあと窓に貼りつけて、水を切ります。

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さらに、スポンジで水分を調整した後に、ビニールに包み、重石をかけて、このまま明日まで置いておきます。

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これで1日目が終了です。どれもとても細かい絵柄でしたが、みなさん腐食の段階まで終えることができました。明日はついに刷りに入ります。多色刷りですので、配色が肝です。準備されたカラーインクを見て、想像をふくらませながら帰路につきました。

 

<2日目>

さあ刷るぞ!と言いたいところですが、刷りに入る前に、「プレートマーク」という版の縁についた斜めの部分を仕上げます。このプレートマークをつけることで、刷る際にプレス機のフェルトや紙が痛むのを防ぎます。今回はもともとスタッフの手でプレートマークを削っていたのですが、荒削りだったので、ここでキレイに仕上げていただきました。

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ようやく刷りの段階に入ります。最初に柳本さんのデモンストレーションを見て、インク入れるところから、プレス機にかける流れを確認しました。

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まずはインクをつめて、

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 余分なインクを寒冷紗で拭き取り、薄い紙でさらに拭き取ります。これで刷る前の準備ができました。2版ともこの工程を行います。

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プレス機を使って、刷っていきます。今回は2版ですので、2つの版がぴったり重なるように刷ります。下の写真は1版目が刷り終わり、2版目を刷るところです。

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こんなふうに刷ることができました。版を洗浄すれば、色を変えることができるので、色の組み合わせを試していきます。今回は8色のカラーインクをご用意しました。色見本はとても濃く出ていますが、刷るとまた違った具合になります。多色刷りで、色が重なる部分もあるので、色のがどのように作用するか試しながら刷っていきます。

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皆さん休憩も無しに、皆さん黙々と刷り続けてくださり、あっという間に3時になりました。1人5枚刷って、ひとまず終了です。5枚というと、一見少ないように思えますが、インクをつめる行程を5回繰り返すには、意外と体力を使います…。

最後に皆で鑑賞会&感想会をしました。感想をうかがってみると、ほとんどの方が、銅版画は未経験だったようです。特に失敗が無く、それぞれ作品として形にすることができました。どのような作品が出来上がったか、一部をご覧ください。

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作品のなかには、元々のフレームにオリジナルの絵柄を入れる方もいらっしゃいました。同じ絵柄でも、色を組み合わせて刷ると、また違った印象になりますね。今回作った版は、保管しておけばまた刷ることができますし、加筆することもできます。今回は短時間の制作でしたが、これからまた創作週間等で自主制作していただけると、どんどん作品作りの面白さを感じていただけると思います。当館収蔵品の銅版画の作品のなかには、エッチングの技法で制作された作品が多数あります。遠い昔に作られた作品ですが、技法を体験することで、作者の視点に添うような形でも鑑賞していただけるようになると思います。

次回の創作週間スペシャルは、シルクスクリーンです。
2月10日・11日に実施を予定しており、1月の上旬から参加者募集を開始する予定です。お楽しみに!

 

 

作れちゃう 観れちゃう

9/22-23 実技講座 日本画・金箔貼り「扇面に描く」

講評会
「幕末狩野派展」関連講座として、9月22日から二日間連続で扇面画を描く講座が開催されました。本展覧会に出展されている、橋本雅邦《暮山図・鶺鴒図扇面》は、明治38年にセオドア・ルーズベルト大統領夫妻に贈られたと考えられる扇で、外交において重要な役割を果たす贈答品だった可能性が高い作品です。扇というと、現代では、涼を求めてあおぐ夏扇が一般的ですが、時代をさかのぼると、戦の褒美や男女の契りの証として用いられるなど、単にあおぐだけでなく、表現や意思疎通の手段として重要な役割を果たしていたことがわかります。本講座では、そういった扇の用途にも着目した上で、大切な人へ想いを馳せながら「贈る扇」の図案を作成していただきました。

扇表を見る
はじめに、本展覧会を担当している野田麻美学芸員から、展覧会の見どころについてレクチャーを受けました。企画展示室の最後を飾る扇面を囲み、この扇が贈答品として用いられた経緯や、狩野派と扇の関係について話が及ぶと、参加者の方々は興味深そうに扇に見入っていました。俵屋宗達は扇屋だったことで有名ですが、狩野派も、もともとは扇屋として画業をスタートしたそうです。狩野派の系譜につらなりながらも、近代への橋渡しとしての役割を担った橋本雅邦が、最晩年に手がけた扇であったことを知り、感慨深い気持ちになると同時に、扇が人と人を繋ぎ関係性を深める重要な贈答品だったことに、改めて気づかされました。

強さん
実技の講師には、静岡県出身の日本画家、鈴木強先生をお招きしました。鈴木先生の作品は、金箔を用いた吉祥画が多く、当館の講座では日本画や金箔貼りを中心に、10年以上ご指導をいただいています。

【参考作品】波間に雀&昇り鯉
今回の講座では参考作品として、鈴木先生描き下ろしの扇面画を扇子に仕立てたものを用意しました。《波に雀》(左)には金銀砂子が、《昇鯉》(右)にはひび割れたようなテクスチャーの切箔が施されています。自分の描く図案に合わせて、どのように箔を用いるかも腕の見せどころになります。

資料を見る

鑑賞の後、各々の扇面画制作にかかりました。今回は贅沢にも、展覧会会場の作品をスケッチする時間を設け、図録なども参考に主題となるモチーフを選択し、図案を考えました。

下図作成
上の写真の参加者の方は、2羽の鶴を主役に描くことを決めました。扇面というアーチ状の画面を活かし、モチーフをどこに配置するべきか、考えを巡らせます。

下図を本紙に写す

下絵が出来次第、本番用紙へと写していきます。日本画の制作工程では「写す」という作業が度々あります。下絵を描く→下絵をトレーシングペーパーなどの透ける薄紙に写す→写した下絵を転写紙で本番用紙に写す…と、最低でも3回は同じ図案を描くため、どうしても面倒な気持ちになりますが、都度、新鮮な心持ちで取り組むことで、出来栄えも大きく変わります。

胡粉と絵具レクチャー
皆さんの下絵が出来上がってきたところで、鈴木先生から、墨、胡粉、水干、膠といった、日本画特有の画材について、扱い方のレクチャーがありました。今回の講座では、扇を仕立てた時に滲みなどが生じないよう、特殊なメディウムも使用しました。

墨で骨描き

本番用の図引紙(扇面用紙)に写した下絵を墨で描き起こしていきます。この工程を「骨描き」と呼びます。墨で引いた線は乾くと滲まず、流れませんので、まさに絵の骨格となる線になります。

着彩2龍
上の写真は、当館所蔵品で、本展覧会にも出展されている狩野永岳《富士山登龍図》を参考に描いた図案です。本物は掛幅装で縦長の構図ですが、扇面に合わせて、右に暗雲から現れる龍の頭部と、左に富士を配置しています。扇子を少しずつ開く度に臨場感が増す構図に仕上がっています。

着彩1日目終了

扇面を池に見立て、蓮と鴨を描いていた方の作品です。右側に白く抜けている蓮の葉には、金箔を施す予定とのことでした。皆さんの着彩の目途が立ったところで、どんな風に箔の意匠を施そうかと思案を巡らせつつ、1日目を終了しました。

砂子撒き
2日目の午前中に、箔を用いた様々な技法のレクチャーを受けました。最初に「砂子撒き」のやり方を教わりました。竹製の筒に金網の張られた「砂子筒」に箔を入れ、固めの刷毛でかき回すと、網目から箔がはらはらと落ちてきました。砂子を撒きたい場所に予め膠を引いておくことで、膠が糊の役目を果たし、箔が画面に付着します。

砂子撒き直後
上の写真は、金箔を砂子撒きした直後の状態です。まだ箔が立っているのがわかります。この後、膠が半渇きになるまで待ち、あて紙をした上から固いもので箔を押して定着させます。

箔あかし
つづいて「箔あかし」を教わりました。金箔は非常に薄く、1枚で扱うことが困難です。「あかし紙」という紙に箔を貼りつけた状態にすることで、画面などに施すことが可能になります。箔を上手くあかせるまでにも経験を要するため、この体験の後に、狩野派が手がけた金屏風などを目にすると、技術力の高さに驚愕します。

三吉箔のり1

画面を金箔で埋め尽くす際には、あかした箔を四角いまま貼り付けますが、今回の講座では、各自の意匠に合わせて箔を貼れるよう、特殊な「箔のり」も用いました。上の写真は、雲の部分に箔のりを塗り、あかした銀箔を貼り付けたところです。ひと通りのレクチャーを受け、各々の図案に最適と思われる技法で箔を施しました。

鶴に砂子
鶴を描いた方は、明るい緑色の背景に金銀の砂子を撒きました。まさに吉祥画という雰囲気で、お祝い事に贈れそうな、華やかな仕上がりになりました。

鶴
下の写真では、箔を貼り付けた後、膠が乾ききる前に固い刷毛で箔の表面を叩いています。こうすることで箔が少し剥げ、趣のあるテクスチャーを作り出すことができます。

箔をたたく2
波間に宝船、その間に散らすように金銀箔が施され、お正月にも飾れそうな、お目出たい雰囲気に仕上がりました。

宝船

2日間というタイトなスケジュールで、扇面画の意匠の考案から着彩、金箔貼りまでを全員終えることができました。途中、参加者の方から「この扇は娘に…」といった話も耳にしましたが、時間が許せばお一人ずつ、扇に込めたメッセージについて、お話をいただきたかったです。最後に皆さんの作品を紹介します。どんな想いを込めて制作されたか、想像していただけると嬉しいです。

梅
山水
龍
芍薬
桜
椿
月見酒
稲
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扇子に仕立て上がるのはまだ先になりますが、出来上がりが本当に楽しみです。