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8/4 わくわくアトリエ「切り絵ワークショップ・見つめて作ろう花と虫」

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8月4日に「熊谷守一 いのちを見つめて」展関連企画として、わくわくアトリエ「切り絵ワークショップ・見つめて作ろう花と虫」が行われました。講師には、静岡県出身の切り絵アーティスト、福井利佐さんをお招きしました。福井さんは、国内外を問わず数多く個展を開催され、講座やワークショップなども精力的に実施されています。当館でも毎年、展覧会の内容に合ったユニークなワークショップのアイデアをいただいており、今年も、切り絵を通して熊谷守一の作品を身近に感じることができる、楽しいワークショップが開催されました。

2泰井さんトーク中
はじめに、展覧会担当の泰井学芸員とともに作品を鑑賞しました。当日は親子連れの参加者が多く、熊谷守一の作品を初めて目にする方もいらっしゃいましたが、作家がとりわけ愛したとされる「花」「猫」「鳥」「虫」をモチーフに描かれた作品の前では、その優しい雰囲気に、お子さんと一緒に楽しそうに見入っている姿が見られました。また大人の方からも、この鑑賞時間を経てより深く熊谷守一の世界観に浸れたという声をいただきました。

3デザインカッター練習

実技室に戻り、早速、制作に取りかかりました。まずは、切り絵の技法の基本となるカッターの使い方から練習しました。カッターを使う時は自分のおへその方に向かって刃を進めること、切る方向は必ず一定にして紙を回しながら切り進めること、刃の進行方向に手を置かないこと等々、安全に上手く切るための約束事を教わりました。

4親子で練習
小学校低学年の子どもは、カッターを使用すること自体が初めての経験のため、講師やスタッフ、保護者の方のサポートのもと、使い方を身につけます。最初は上手く出来なくて当たり前ですが、作品が仕上がる頃にはずいぶん上達していることに、毎回驚かされます。

5作品の作り方
つづいて、福井さんが用意してくださった「犬」の作品を参考に、作り方を教わりました。今回は、熊谷守一の作風からヒントを得て、くっきりと輪郭線を残すために、モチーフを面でとらえるアイデアをご提案いただきました。輪郭線も「モリカズ様式」に見られる赤茶系の色に統一することで、それらしい作風を目指します。赤茶系の色紙からモチーフを面で大きく切取り、その上にパーツや模様を貼付け、地の色(赤茶の輪郭線)を残すスタイルで制作しました。

8スケッチ

まずはモチーフのスケッチから始めました。通常、作品保護の観点から、美術館内に生き物や生花の持込みは禁止されていますが、この日は、1日限り実技室限定という約束で、スタッフの管理のもと、本物の「花」と「虫」が実技室にやってきました。

7カブトムシ

今回の花形モデルは、夏休みといえばのカブトムシ&クワガタムシ。思惑通り、子どもたちに大人気でした。ちなみにワークショップの数週間前からスタッフが自宅に持ち帰り大切に世話をしていたこともあり、当日も元気に活躍してくれました。

7クワガタ
蝉の抜け殻を拾い集めてくれたスタッフ、ひぐらしの標本を持ってきてくれたボランティアさん…身近な夏の生き物が色々集まりました。

9せみ
午前の回は女の子が多かったせいか、蝶の標本も大人気でした。図鑑も用意していましたが、やはり本物の存在感には適いませんね。

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熊谷守一の作品に描かれている、ヒマワリやユリの花も用意しました。釣鐘型のオレンジの花(サンダーソニア)は熊谷作品には描かれていませんが、皆さんが好んで作品に取り入れていました。

10花

12輪郭なぞる
スケッチができ次第、輪郭線をマジックで太くなぞっていきます。

13輪郭完成
上の画像は、輪郭線を全部なぞり終えたところです。カマキリと太陽でしょうか。夏っぽくて良い感じです。

14色紙選ぶ
たくさんの色紙を前に考え中…。今回、右端の水色と黄土色の色紙は切り絵を貼りつける台紙として用い、赤茶系の色紙は輪郭線を表すのに用いました。福井さんからのオーダーで、色紙も熊谷守一の作風を意識して選びました。

15輪郭切取り
輪郭線に使いたい色紙が決まったところで、下絵と重ねて絵の外側をカットしていきます。

16貼付け2
切り抜いた蝶より一回り小さいサイズで羽の模様などを貼りつけていくと…

16貼付け

熊谷守一の作風を感じさせる、素朴で優しい輪郭線が現れました。

17出来てきました

皆さんの作品が出来上がってきました。本物を見ながらスケッチしたこともあり、生き物の表現に動きが見られました。右端のカブトムシの作品なども、斜め横から見ている感じや、足の曲がり方、雰囲気が良く出ていますね。

19午前の部完成2
画面の中で花と虫を上手に組み合わせて、素敵なシーンを作ってくれたお子さんもいました。

20午後の部完成
こちらは午後の回の作品です。なぜか午前の回よりカラフルな虫がたくさん登場しました。今回のワークショップを通して、福井さんが「小さな子どもが作った作品ほど、熊谷守一っぽい雰囲気に仕上がっている」と感想をもらしていました。子どものようなピュアな感性を持っていないと辿り着けない作風なのですね…。皆さんの作品も一点一点に個性が感じられ、とても見ごたえがありました。夏休みの思い出として、ご自宅に飾っていただけたら嬉しいです。そして、このブログを読んで熊谷守一の作品に興味を持った方、ぜひ展覧会にご家族で足をお運びください。身近な動植物が描かれた作品は、小さなお子様と一緒に楽しんでいただけると思います。
※「熊谷守一 いのちを見つめて」展 会期:8/2(金)-9/23(月・祝)

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6/9・6/23 実技講座「コチニール×藍 絞り染めの麻ストール」

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「古代アンデス文明展」関連企画として、染色講座が開催されました。この講座では、本展に出品されている「ワリ文化のチュニック」から着想を得て、アンデス文明を代表する赤い染料「コチニール」と、日本の色「藍」を用いた絞り染めの麻ストールを、参加者の皆さんに制作していただきました。

1稲垣さん

講師には、静岡市内で染織教室「YUTORI ART&CRAFT」を主宰されている、染織家の稲垣有里さんをお招きしました。今回の講座は、染める色と書く「染色」講座で、稲垣さんの本業である、染めて織る「染織」とは異なりますが、コチニール染めを学ばれたご経験から、快く了承して下さいました。

4コチニールは貴重
はじめに、コチニールに関する説明をいただきました。コチニールとは、サボテンに生息するカイガラムシ科の「虫」を原料とする天然の色素(主要産地:中南米のペルー、エクアドル、チリ、メキシコなど)です。アンデス文明に登場するほど古い歴史を持ち、貴重な「赤」を作りだせることから、この染料をめぐり大きな戦も度々起こったそうです。現代に至っても、私たちの生活に欠かせない染料であることには違いなく、食品、テキスタイル、化粧品、インク、医療品…身近なところでたくさん使用されています。

5コチニールです
上の写真が、赤い染料となるコチニール虫です。遠目で見ても茶褐色であることが見てとれます。1体の大きさは2~3㎜ほどで、とても小さいです。拡大していただくと細部まで見えるかと思いますが、虫感がすごいです…。

3参考作品と工程
上の写真の左側にかかっている2本のストールは、本講座のために稲垣さんが試作してくださったものです。染料の濃度によって赤の発色度合いも変化するとのことで、参考作品は深みのあるピンク色に仕上がっています。古代の人々が小さなコチニール虫から美しい赤色が生まれることを発見した時は、とても神秘的な体験だったろうと思います。

6ご汁を作る
コチニールについて学んだところで、早速、絞り染めストールの制作にかかりました。まずは、麻とレーヨンの繊維でできたストールに色が染まりやすくするための前処理に用いる豆汁(ごじる)を作りました。

9絞る

一晩水に浸した大豆を用意し、ミキサーにかけ、ぎゅ~っと布で漉して豆汁を絞り取ります。ちなみに、残った大豆の粕をお料理に使うと、とても美味しいおから料理ができるそうです。

10ご汁に麻布を浸す
上の写真は、未着色のストールを豆汁に浸した状態です。上下を返しながら繊維にタンパク質を浸透させ、染まりやすい下地を作ります。しばらく浸け置きしているこの間に、各自、ストールのデザインを考案しました。ビニールで縛った後にコチニール液(赤い染料)に浸け、さらに藍に浸けて…と考えると、どのように絞りを施すとどういった柄ができるのか混乱してしまうため、今回は、四角やストライプといったシンプルな柄を中心に考えていただきました。

12どんどん絞る

デザインが決まった方から順に防染作業をはじめました。豆汁につけた布を取り出し、脱水した後に絞りを施していきます。ビニール紐や輪ゴムを使ってしっかり縛ったところは染料が入り込まず下地の白が残ります。布を屏風畳みにして絞ると線模様ができますが、縦方向か横方向かで、デザインが全く異なってきます。

11ふたりで絞る

皆さん、思っていた以上に絞る工程に力がいることが分かり、先生のアドバイスに従い、二人一組になって作業を進めました。

13一斉に入れる

1回目の防染作業を終えたストールを、ミョウバン液に一斉に浸します。一斉に入れるのは、媒染の効果を均一にするためで、コチニール液や藍液に浸す時も同様でした。

15コチニールを摺る
媒染作業をしている間に、コチニールを乳鉢で擦りつぶします。皆さん、この工程に興味津々だったようで、代わる代わる交替をしながら、細かく擦りつぶしていきました。

17こんなに細かくなりました
粒っぽかったコチニールが、上のようにさらさらの粉末状になるまで擦りつぶし、

19コチニール液
お湯を注ぎ、コチニール液を作ります。虫を擦りつぶしただけでこんなに濃い赤色が発色するとは、本当に驚きです。

20お湯に溶かす
大きなボールにお湯を沸かし、コチニール液を流し込んでいくと、お湯の色が赤紫に変化しました。

22赤く染まってきました
皆さんのストールをコチニール液に浸したところで、しばしお昼休憩…。休憩の間も、時折り布の上下を返して、まんべんなく染まるように注意を払います。

23コチニール染め上がり
上の写真は、コチニールで染め上げた直後のストールです。とても綺麗な赤紫色に染まっており、絞りを施した部分も、くっきりと白く残っているのが分かります。次の工程では、このストールに藍色を重ねるため、そのまま白く残したいところは絞りを解かず、赤色を残したい箇所を新たにビニール紐でくくります。

25粉砕
上の写真は、藍の染料です。藍もコチニールと同様、乳鉢で細かく擦りつぶします。

26藍建て
擦りつぶした藍に薬品を加えて発酵を促します。

27発酵を促す
この工程を「藍を建てる」と呼びます。藍建てが上手くいったかどうかは微妙な色の変化で判断するそうで、稲垣先生が見極めるのを、どきどきしなら見守りました。

29一斉に入れる
無事に出来上がった藍液に2回目の絞りを施したストールを投入。ビニールの空気を抜いて、密閉した状態で袋を揉みます。

30染まりました
袋から取り出し、空気に触れると藍の色が濃く発色しました。一体どんな模様になっているのでしょうか。

31絞りを解く
色止めの酢酸液に浸けて脱水した後、いよいよ絞りを解き始めました。この時間が待ち遠しく、皆さんの手も進みます。

32綺麗に染まりました

ひとつ模様が見える度にあちこちから「わあ綺麗」「素敵な模様!」といった声が聞こえてきました。仕上がったストールを広げて嬉しそうにはしゃいでいる女性の皆さんを目にし、アンデス文明の頃から、こういう光景は変わっていないのかもしれない…などと思いました。

34完成!
参加者全員のストールが完成しました!作品を全て並べると、ストライプや四角を組み合わせたシンプルなデザインの中にも、皆さんそれぞれの個性が光っていますね。藍×白という組み合わせは日本の染物によく見られますが、赤が入ると、ぐっとオリエンタルな雰囲気も感じられ、洋服だけでなく、和服に使っても粋なアクセントになりそうです。赤に藍、現代も変わらずに私たちの暮らしに寄り添う貴重な色を纏って、お洒落を楽しんでいいただけたら嬉しいです。

 

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5/25 わくわくアトリエ アルパカの毛で作るアルパカブローチ

「古代アンデス文明展」関連講座として、アルパカの毛を使用してアルパカのブローチを作る講座が開催されました。アルパカは、古くからアンデス地域の人々の生活に深く関わってきた動物です。今回行われた講座では、そのアルパカの本物の毛を使用し、アルパカの姿のもこもことした可愛らしいブローチ作りに挑戦しました。(下に掲載の写真は講師による参考作品です)

 

 

今回の講座で講師を担当して下さったのは、SBS学苑(パルシェ校・遠鉄校)や、暮らしの学校(愛知県岡崎市)で羊毛フェルト教室の講師をされている大村智子先生。羊毛を使い、まるで本物のようにふわふわとした、可愛らしい犬や猫のフェルト作品などを制作されています。講座の最初のご挨拶では、大村先生ご自身で制作された、可愛い猫の顔のブローチを胸に付けて登場されました。

 

 
ブローチの制作を始める前に、当館学芸員で「古代アンデス文明展」の担当学芸員である浦澤さんより、アンデス文明についてや、アルパカとの関連性についてご説明をいただきました。「古代アンデス文明展」では、アルパカと同じラクダ科の動物であるリャマを表現した土製のリャマ像や、リャマらしきラクダ科の動物が描かれた土製の皿などが展示されています。アンデスではリャマやアルパカは家畜として輸送手段のほか、毛や皮、肉や骨まで余すことなく利用され、生活する人々にとって大変重要な存在だったそうです。


 

講座が開催された当日は、同じく「古代アンデス文明展」関連イベントとして本物のアルパカが美術館に来館しました。講座の参加者の皆さんと共にアルパカの見学・観察会を行い、写真を撮ったりスケッチをしたりしながらアルパカについて学びました。飼育員さんよりアルパカの紹介や生態についての説明があり、参加者からも質問が飛び交うなどして盛り上がりました。来館したアルパカは5月上旬に頭部より下の毛を刈ったそうで涼しそうな様子でしたが、本来アルパカの生息しているアンデス山脈は標高が高く乾燥した場所で、気温も湿度も高い日本の夏の気候は、寒さに強いアルパカにとっては少々厳しい環境だそうです。そんなアルパカの毛は、アンデスでは衣類の材料としても重宝されたそうです。

 

 

アルパカの見学・観察会を終え、ブローチ制作が始まりました。用意された材料の毛は、羊の毛とアルパカの毛の2種類あり、参加者はその感触の違いを興味深そうに確かめていました。羊毛よりアルパカの毛の方が手触りは滑らかで、高級品だそうです。

次に、先生より羊毛フェルトの制作で使用する道具の使い方について説明がありました。制作を進める上で一番重要となる道具は、ニードルです。このニードルの先端には小さなギザギザとした部分があり、それを何度も毛に突き刺すことによって、毛と毛が少しずつ絡み合い固めていくことができます。先が鋭く尖っているので使用する時は十分に気を付け、使わない時は必ず用意されたスポンジに刺しておくなど、使用時の注意事項が説明されました。


 

今回の講座では、参加者の方に一から制作をしていただくのではなく、大村先生にアルパカの大まかな形を作る工程までを事前にご制作・ご用意していただきました。ここまでの作業で、参加者1人分につき約50分もかかったそうです。そんな先生の心のこもったブローチのベースを元に、先ず初めにアルパカの目のパーツを、目打ちと木工用ボンドを使って付けていきます。

 

 

制作の様子を温かく見守る大村先生。今回は親子で参加された方も多かったです。大変分かりやすくご指導をしていただき、小さなお子様や初めての方も楽しみながら制作を進めているようでした。

アルパカの目のパーツを付け終えたら、次はいよいよニードルを使い、焦げ茶色の羊毛で鼻と口を表現していきます。ニードルは上から真っ直ぐ刺し、引き抜くときも真っ直ぐ上に引き抜くのが正しい使い方だそうです。最初は同じベースだったアルパカも、作る人によって表情は様々。徐々に個性が感じられるようになってきました。

 

 

顔のパーツが完成したら、次は耳を作っていきます。耳には白い羊毛を使います。耳の大きさに丁度良い量の羊毛を手でちぎり、両手の中で転がすように丸めていきます。その時に、アルパカの耳の形を頭に思い浮かべながら丸めていくと良いそうです。大体アルパカの耳の形に固まってきたら、ニードルで刺してアルパカの頭の上にしっかりとくっ付けます。

両耳が付いたら、ここでいよいよアルパカの毛の登場です。束になっている毛を少しずつちぎって丸めたものをアルパカの身体全体にくっ付け、もこもこの毛並みを表現していきます。

 

 

ここまで出来たら、アルパカの姿の完成です。土台のオレンジ色のフェルトを完成したアルパカの輪郭に合わせてカットし、アルパカの首に綺麗なビーズのネックレスをくぐらせます。更にもう1枚厚手のフェルトを裏側から貼り付け、最後にブローチのピンをボンドで貼り付けたら、アルパカブローチの完成です!

 

 

講座の最後に、完成したアルパカブローチを並べて鑑賞会を行いました。参加者は、「可愛い!」と嬉しそうな様子で自分の作った作品や他の方の作品を眺めたり、写真を撮ったりして楽しんでいました。大村先生が事前に制作を進めてくださったお蔭で、約1時間45分で参加者全員が完成させることが出来ました。大村先生も、作品が完成した時の皆さんのそんな笑顔を見ると、1人分約50分かかった準備の苦労も吹き飛んでしまうと、笑顔でおっしゃっていました。

 


にっこり笑ったアルパカやハートの模様が付いたアルパカ、大胆に翼を生やしたアルパカなど、本当に個性豊かなアルパカブローチが完成しました。貴重なアルパカの毛で出来た世界に一つだけのアルパカブローチ、ぜひ大切に使ってくださいね!

 

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4/13-14 創作週間スペシャル・日本画「姫屏風に描く」

「屏風爛漫-ひらく、ひろがる、つつみこむ」展関連講座として、姫屏風に日本画を描く講座が開催されました。日本では古くから間仕切りの道具として屏風が用いられ、そこに描かれた絵によって、祝祭の場や風情を味わうための空間を作りだす機能も果たしていたと考えられています。今回の講座では、卓上サイズの姫屏風を用いて、屏風の形式や特徴に着目した上で、構図や下絵の構想を膨らませ、日本画の画材を用いてオリジナルの二曲屏風を制作していただきました。(下に掲載の写真は講師による参考作品です)

3日下先生作品
講師には、当館で月に1回開催されているプログラム、「創作週間」で日本画のインストラクターを担当して下さっている、日本画家の日下文先生をお迎えしました。本講座は、展覧会の鑑賞とともに、姫屏風に描く工程を通して、日本画の道具や技法にふれていただくことも目的としています。日本画初心者の方の場合、講座内では仕上がらないことも考えられますが、後日「創作週間」内で日下先生の指導の元、ゆっくりと制作を進めていただくことができます。

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1日目のはじめに、「屏風爛漫」展を担当した石上学芸員とともに展覧会を鑑賞しました。額に収められた絵画が展示されている場合、キャンバスに描かれている内容について考察することで作者の意図に近づきますが、屏風の場合、道具として用いられることではじめて、描かれたものを存分に味わうことができます。例えば、屏風は蛇腹にすると自立が可能になるという特徴があります。展示されている屏風の多くは、山折り谷折りの部分を上手く利用して、見せたい場面を山側で強調し、奥行きを持たせる場面は谷側に描いていることが見てとれます。こういった特徴に着目した上で、オリジナル屏風の構想を練っていただきました。

1企画展鑑賞
実技室に戻り、日下先生の作品や画集なども参考に下図の考案にかかりました。

4下図資料

本番の屏風と同じ大きさの下図用紙に、自分の描こうとするモチーフを色々と配置しながら、どのようにすれば屏風のかたちを生かした図案になるかを考えます。下の写真の方は、二曲の屏風に右側に春、左側に秋の図を描こうとしています。日本画の制作工程では、下図をしっかりと描くことが重要ですので、先生が一人ずつアドバイスをして回ります。

5下図作成

百人一首をモチーフに選んだ方もいました。色とりどりの華やかな着物や和歌をしたためた書、そのまま用いることができるサイズ感といい、姫屏風との相性が抜群に良さそうです。

6百人一首下図

こちらの方は龍をモチーフに選ばれた様子。小さな姫屏風にどのように龍を収めるのか、仕上がりが楽しみです。

7龍下図

図案が決まり次第、色鉛筆で着彩計画を立てていきます。油絵を経験した方が日本画の制作工程を目にすると、綿密な計画に驚かれ「これだから日本画は大変…」などと言われたりします。しかしこれは、単に念入りにやっているというわけではなく、絵具を自分で作らなければならないということに加えて、作った絵具は数日で使えなくなってしまうという点、さらに、油絵のように絵具が乾かないうちから色を重ねていくことができないという画材の性質によるところが大きいです。絵具の準備も含めて、着彩の工程を計画的に段取る必要があるのです。

10着彩計画

午後からは下図を本画用の紙に描き写すため、昼休憩の前に鳥の子紙を水張りしました。今回は屏風の形式を考慮して、連続した画面も描きやすいよう、仕立てられた屏風に直接描く方法と、別紙に描いた絵を切り取って貼り付ける方法を選択できるようにしました。

8水張り

下図を描き写した人から、墨による骨描き(こつがき)、隈取り(くまどり)、着彩、と各自のペースで描き進めていくため、事前に、日下先生から基本的な道具の使い方や、描き方の説明がありました。

9墨絵具説明

骨描きの「骨」は輪郭線を指します。墨で描いた線は乾くと水に流れず、滲まず、最後まで残りますので、まさに絵の骨格となる線になります。

12骨描き

骨描きをした後、墨で隈(くま)を施します。隈とは濃淡のことで、凹凸感や立体感を出すために用います。

13墨濃淡

下の写真で日下先生は、右手に墨をぼかす平筆、左手に水を打つ用の平筆と墨を含ませた面相筆を持っています。ぼかす作業は水が乾かないうちに進めなければならないため、二~三本の筆を素早く巧みに使い分ける必要があります。数センチ四方をぼかす為にこれだけ繊細な作業が必要になることを体験すると、幅何メートルかに及ぶ展示室の屏風など、見る目が変わります。

11筆たくさん

2日目は着彩からスタートしました。写真の奥に見えているのは、水干(すいひ)と呼ばれる、日本画に用いられる絵具です。乳鉢で粉末状に砕き、膠(にかわ)を加え着彩に適した粘度まで指で練り上げたものを、水で溶いてから用います。一色作るのに15分以上かかるでしょうか…。日下先生が「絵具を作っている時は、次の段取りを考え、精神を集中する時間でもある」と話されていたのが印象的でした。下の写真からも見て取れるよう、水干絵具はマットな質感で鮮やかに発色します。

14着彩
絵具を塗り重ねる際は、先に塗った絵具が動かないよう、乾いてから一色ずつ重ねていきます。下の写真の方は、薄く溶いた橙色の水干絵具を、乾いては塗り…と繰り返し、紅葉の繊細な重なりを表現しています。

15着彩

ご自身で撮影された桜の写真を参考に描かれた方もいらっしゃいました。全体的にピンク色に塗られた画面の上に幹の色を重ね、ほんのり下の色を映したとことで、春の空気感が一段と感じられる色合いになっています。

16着彩

仕上がった方から、水張りした紙を屏風の窓枠の大きさに合わせて切り取り、貼付けました。この講座では、簡易的にスプレー糊を用いました。

17貼付け

講座の最後に鑑賞会を行いました。出来上がった方もそうでない方も、各々、作品についてお話していただき、日下先生からアドバイスをいただきました。小さな屏風の中にそれぞれの世界観や工夫が見て取れ、一点一点、とても魅力的な作品に仕上がりました。

講評会

出来上がった方の作品を1点ずつご紹介します。下の写真は、鮫の目にフォーカスした個性的な作品。小さな二つの画面を横断して泳ぐ鮫の姿が、見る者を水族館にいるような気分にさせてくれます。

鮫の目

屏風の右に春、左に秋の景を描いた作品。桜と紅葉の木を川の流れがつないでいます。鳥や川面の様子にも着目してみてください。

春秋図

森の木立を描いた作品。屏風の形態を生かし、奥行きを持たせて描かれています。足元には春の訪れが。散策しているような気持ちになります。

森の春

下の写真は模写による作品ですが、屏風の枠のバランスを考慮して絶妙な位置に人物が配置されています。落款も金地に映え、それらしい仕上がりになっています。

古画
桜の木とお孫さんを描いた作品。構図的に、桜を見上げている感じでしょうか。とても春らしい、瑞々しい雰囲気が伝わってきます。

孫と桜

百人一首を散りばめた作品。姫屏風の雰囲気と相まって何とも愛らしく、お部屋に飾っておきたいです。

百人一首
元気いっぱいのキャラクターが大きく描かれた作品。絵本のようで可愛いらしい感じがしますが、狛犬の阿吽を意識して描かれたそうです。深い…!

坊
当館所蔵の横山大観《群青富士》に着想を得て、夕焼けの図です。雲海も赤く染まっています。富士山に向かって中央の方に、ぐっと視線が引き寄せられ、小さな姫屏風の向こうに雄大な景色の広がりを感じられます。

夕焼け群青富士

根気よく墨の濃淡を重ねて描いた、龍の図。モチーフとしては大きめだったので、どのように画面に収めるのか最後まで分らなかったのですが、なんと!左側の画面をカッターで龍の形に切り抜き、貼り付けていました。斬新なアイデアです。姫屏風に収まりきらない龍の猛々しさが迫力を持って伝わってきます。

龍の図

ご紹介した作品は一部になりますが、いかがだったでしょうか。スタッフ一同、二日間でこのように完成度の高い作品が仕上がったことを嬉しく思うと同時に、皆さんが、観賞と制作を通して、屏風の特徴的な意匠をしっかりとふまえて制作されていることに感心しきりでした。現代において、屏風が一般的に用いられることはほとんどありませんが、日本人は誰しも、屏風的な物の見方を自然に受け入れられる感性を持ち合わせているのかもしれませんね。この講座で制作した姫屏風も、季節の折に眺め、愛でていただけるよう願っています。

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3/9-10「北井一夫と考える2020年代のアーティスト像」講座

「1968年 激動の時代の芸術」展関連講座として、出展作家の北井一夫氏を講師にお招きし、表現者として生き抜く術について考える2日間の連続講座を開催しました。講座の企画段階では、写真家として第一線で活躍されている北井さんに、写真の実技指導をしていただくといった内容を考えていましたが、北井さんから「今は写真の技術を学ぶ時代ではない」という言葉とともに、技術よりも、どう表現するか、どんな媒体で表現するか、これからの時代どうやって写真家として生き抜いていくかということに焦点を当てた方が面白い講座になるのでは、というご提案をいただきました。これを受け、より実践的な活動について考察を深めるため、北井さんからご紹介いただいた3組のゲストを交えての対談を中心とし、受講者の方に作品をご持参いただいた上で講評会を実施しました。

北井さん
初日は「本気で写真家を志す人」を対象に、作品持参という条件で受講者を募り、県内各地から約20名の参加がありました。講座室はいつもとは違う緊張感が漂い、講習中も懸命にノートを取っている姿が印象的でした。

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1日目は、ゲストに雑誌『日本カメラ』副編集長の村上仁一氏と、本展覧会を担当する川谷承子学芸員を交えて「これからの写真家」をテーマに対談が行われました。対談の前半は、1960年代から始まった北井さんの写真家としてのキャリアや生き方について、作品をスクリーンに投影しながら編集者としての視点で村上さんが北井さんに質問するかたちで進行しました。後半は、川谷学芸員が質問者となり、表現者としても活動をされている村上さんの視点も伺いつつ、1970年代~現在に至る日本の写真の評価、カメラ雑誌の衰退にともなう写真家の仕事の変化、写真集、個展、SNSといった作品を発表する場の変化など、写真を取り巻く時代背景やそれをふまえた現状について考察しました。

0309午前対談
午後は、北井さんと村上さんによる作品講評会を実施しました。学生の方、副業をしながら作家活動されている方、写真雑誌のコンペで受賞経験のある方など、年代も立場も様々の方が集まり、作品台を囲んでの講評会となりました。1人10分程度の持ち時間で、持参した作品をテーブルに並べ、撮影のテーマなども話していただきました。北井さんも村上さんも、お一人ずつ真剣に講評をしてくださり、時間を延長する場面が何度も見られました。若い方々は、自分は何をどのように撮っていけば良いのだろうという根本的な悩みを抱えているようで、それが作品にも表れていました。午前の対談時に、北井さんがドキュメンタリー写真についてふれる場面があり、写真家は被写体との関係性を写すのであって、それが全てであるといった内容を話されていましたが、たしかに、人を惹きつける作品は一貫した姿勢で被写体と向き合っている感じが伝わってきました。

講評会1
講評会2
0309講評会

2日目は「アートマーケットとの付き合い方」をテーマに、写真に限らず現代アートに関心のある方まで対象を広げて受講者を募り、県内外から40名近い参加がありました。

0310講座室

昨日にひきつづき、川谷学芸員が質問者となり対談が進行しました。昨日は表現者としての北井さんへの質問が中心でしたが、この講座では、表現することだけでなく売るという行為について、一歩踏み込んだ内容に質問が及びました。ゲストにはYumiko Chiba Associatesディレクターの千葉由美子氏を招き、北井さんの作品との出会いや、国内外のアートマーケットの動向、主に90年代半ば以降のプライマリーマーケット(作品が世に出る最初の市場)についてお話を伺いました。千葉さんは、2012年に東京都写真美術館で開催された「北井一夫  いつかみた風景」展で、それまでにも感じていた北井さんの一貫した作品表現や展示表現の姿勢を見てとり、大変な感銘を受けたそうです。また北井さんも千葉さんに大きな信頼を寄せているとのことでした。お二人の話を伺い、表現者と、その作品を扱うギャラリーが時間をかけて信頼関係を築き、その上でマーケットが成り立っているということに改めて気が付かされました。

0310午前対談

午後は、北井さんと千葉さんに加えて、1968年に実川美術を設立後、87年まで「自由が丘画廊」を運営された実川暢宏氏を特別ゲストとしてお招きしました。実川さんは、現代美術作品の収集がほとんどされていなかった1970年代前後から、先見の目を持って作品と関わってこられました。現代美術のアートマーケットがどのように展開し現在にいたるのかということを、私たちが知り得ない時代背景を次々と明るみに出して話され、非常に面白い対談となりました。最後に、これからアーティストを志す人は、とにかく面白い人間とたくさん関わり、その中で繋がりを作っていくことが大切だと話されていたのも印象的でした。

0310午後対談
2日目の対談後に質疑応答の時間を設けました。皆さんの問いや意見をできるだけ多く拾うために、予め質問用紙にご記入いただき、回収した後に質問内容を読み上げました。(以下一部抜粋)「ギャラリーがアーティストを見出すお話がありましたが、作家からアートマネージャーを探す、アプローチすることは活路がありますか?」、「自分が撮りたいものがわからなくなったり、迷ってしまう時に何をヒントに見つけていけばいいでしょうか?」といった作家志望の方々からの率直な質問が相次ぎ、普段ではなかなか聞かれないと思われる貴重な回答もいただきました。また、「マーケットの事など考えもしなかったのですが、とても面白かったです。見方が変わりました。」、「現代、1960年、1970年、それぞれの時代で評価されてきた人の背景や売れるために大切なことを学ぶことができて有意義でした。」といった、ここには書ききれないほどのご意見やご感想もいただき、盛大な拍手とともに講座を終了しました。私たち運営側もこういったスタイルの講座は初めてでしたが、出展作家である北井さんを通じて、編集者、ギャラリスト、コレクターといった、第一線で活躍する方々の視点を、受講者の皆さんとともに共有することができ、大変貴重な2日間となりました。このような機会を与えていただき、ご賛同くださった皆さまに心から感謝いたします。